「画家とモデル」 / 中野京子
- 2021/03/02
- 06:28
このご時世、家にいることが多いのですが、本はあんまり読んでいません。なんかその気にならないんだよね。図書館も予約のみしか受け付けていないので、館内でぶらぶらして時間を過ごすことが出来ない。それでも直木賞作家の某女史の文庫本を2、3冊借りてきて読んだけど、つまらない。暗い話なんで余計気が滅入り、まったく受け付けなかった。
去年の9月に予約した「画家とモデル~宿命の出会い」中野京子(新潮社)がようやく手に入った。中野さんの本はたくさん読んでいるんですが、この本も期待通りの面白さで一気に読んでしまいました。文章のうまさにはいつもながら感嘆します。

《表紙絵 編んだ髪 アンドリュー・ワイエス 1979年 テンペラ 41.9x52.1cm》
画家とモデルをめぐる18篇のお話です。有名な画家や知らない画家が出てきます。一番感じたのは自分のような凡人と天才画家たちの波乱万丈の生涯の天と地ほどの違いでした。彼らは後世に素晴らしい作品を残しましたが、はたして自分は何をして、何を残したんだろう・・・ふっと思いました。
アメリカの画家アンドリュー・ワイエス(1917~2009)は国民的な画家でした。彼は生涯数えきれないほどの芸術賞や勲章、名誉博士号を手にしています。彼はプロのモデルはほとんど使わず、近隣の平凡な生活者、肉体労働者を描いていました。ところが彼は15年にもわたりこっそりある女性をモデルに240点以上の作品を描き続けていたんです。その女性が表紙の女性で、ドイツ系移民で4人の子持ちの若くないヘルガ・テストルフだったんです。彼女のことは彼の妻にも秘密にしていました。やがて彼が70歳になる前にこのことを妻に告白し、彼女の作品を世間に発表し、一括売却しました。この<ヘルガ・シリーズ>は評判となり、「世紀の密会」としてスキャンダラスな報道をされました。彼女のヌードも描かれていたため二人の特別な関係を疑われましたが、ワイエスは否定しています。この1篇を売りにし、本書の帯にも「世紀の・・」が記されていたそうです。出版社の作戦がいやらしいですね(笑)。
その他の文章の中で印象に残っているのはモディリアーニと<ジャンヌ・エビュテルヌ>です。モディリアーニ(1884~1920)は「破滅型の芸術家」として伝説を残しました。貧困、肺結核、過度の飲酒、麻薬におぼれ、多くの女性にもてたイケメンでしたが、35歳の短い生涯を終えています。

《ジャンヌ・エビュテルヌ 1919年油彩 130x81cm 》
そんな彼と両親の反対を押し切って一緒になったのがジャンヌ・エビュテルヌでした。彼が32歳、彼女は18歳でした。彼女をモデルに何枚か絵を描いています。上の絵は彼女が妊娠7ヶ月頃のものです。大きなお腹のジャンヌがひねった姿勢で椅子に座っています。
やがて結核の末期だったモディリアーニは亡くなります。その直後1歳の娘を残し、6階の窓から身を投げ彼の後を追いました。彼女のお腹には子供がいました。痛ましい話ですね。何故子供たちのために生きようとしなかったんでしょうね。
画家のモデルと言えば美女をイメージしますが、本書では、奴隷として生きる小人症のモデルを人間として描いたベラスケス、多毛症の少女を母親の目線で優しく捉えた女流画家のフォンターナー、死後30年経って生涯秘めてきた黒人青年のセクシュアルなヌードが公開されたサージェント。同性愛者への嫌悪の時代に秘められた関係だったのでしょうか。このように様々な画家とモデルの関係を中野さんの巧みな文章で語り、読者を魅了し、中野ワールドに引きずりこみます。
2019年11月にハプスブルク展と鏑木清方展に行ったのが最後で、1年以上美術展には行ってないので飢えています。現在催されている「古代エジプト展」などは見に行きたいんだけど、躊躇しちゃいます。仮に解除されても安心できない。
去年の9月に予約した「画家とモデル~宿命の出会い」中野京子(新潮社)がようやく手に入った。中野さんの本はたくさん読んでいるんですが、この本も期待通りの面白さで一気に読んでしまいました。文章のうまさにはいつもながら感嘆します。

《表紙絵 編んだ髪 アンドリュー・ワイエス 1979年 テンペラ 41.9x52.1cm》
画家とモデルをめぐる18篇のお話です。有名な画家や知らない画家が出てきます。一番感じたのは自分のような凡人と天才画家たちの波乱万丈の生涯の天と地ほどの違いでした。彼らは後世に素晴らしい作品を残しましたが、はたして自分は何をして、何を残したんだろう・・・ふっと思いました。
アメリカの画家アンドリュー・ワイエス(1917~2009)は国民的な画家でした。彼は生涯数えきれないほどの芸術賞や勲章、名誉博士号を手にしています。彼はプロのモデルはほとんど使わず、近隣の平凡な生活者、肉体労働者を描いていました。ところが彼は15年にもわたりこっそりある女性をモデルに240点以上の作品を描き続けていたんです。その女性が表紙の女性で、ドイツ系移民で4人の子持ちの若くないヘルガ・テストルフだったんです。彼女のことは彼の妻にも秘密にしていました。やがて彼が70歳になる前にこのことを妻に告白し、彼女の作品を世間に発表し、一括売却しました。この<ヘルガ・シリーズ>は評判となり、「世紀の密会」としてスキャンダラスな報道をされました。彼女のヌードも描かれていたため二人の特別な関係を疑われましたが、ワイエスは否定しています。この1篇を売りにし、本書の帯にも「世紀の・・」が記されていたそうです。出版社の作戦がいやらしいですね(笑)。
その他の文章の中で印象に残っているのはモディリアーニと<ジャンヌ・エビュテルヌ>です。モディリアーニ(1884~1920)は「破滅型の芸術家」として伝説を残しました。貧困、肺結核、過度の飲酒、麻薬におぼれ、多くの女性にもてたイケメンでしたが、35歳の短い生涯を終えています。

《ジャンヌ・エビュテルヌ 1919年油彩 130x81cm 》
そんな彼と両親の反対を押し切って一緒になったのがジャンヌ・エビュテルヌでした。彼が32歳、彼女は18歳でした。彼女をモデルに何枚か絵を描いています。上の絵は彼女が妊娠7ヶ月頃のものです。大きなお腹のジャンヌがひねった姿勢で椅子に座っています。
やがて結核の末期だったモディリアーニは亡くなります。その直後1歳の娘を残し、6階の窓から身を投げ彼の後を追いました。彼女のお腹には子供がいました。痛ましい話ですね。何故子供たちのために生きようとしなかったんでしょうね。
画家のモデルと言えば美女をイメージしますが、本書では、奴隷として生きる小人症のモデルを人間として描いたベラスケス、多毛症の少女を母親の目線で優しく捉えた女流画家のフォンターナー、死後30年経って生涯秘めてきた黒人青年のセクシュアルなヌードが公開されたサージェント。同性愛者への嫌悪の時代に秘められた関係だったのでしょうか。このように様々な画家とモデルの関係を中野さんの巧みな文章で語り、読者を魅了し、中野ワールドに引きずりこみます。
2019年11月にハプスブルク展と鏑木清方展に行ったのが最後で、1年以上美術展には行ってないので飢えています。現在催されている「古代エジプト展」などは見に行きたいんだけど、躊躇しちゃいます。仮に解除されても安心できない。
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